2011年1月8日土曜日

JICA青年海外協力隊@ウガンダ体験記 (2009年) 3/3: 総括

JICAの青年海外協力隊については名前こそはよく聞いていて多少の興味はあったものの、特になんの深い理解やリサーチもせずに飛び込んでいったので、逆に見るもの聞くもの全てが新鮮で得るもの・考えるものが大きかった。最後に半年間の体験の総括である。

青年海外協力隊の印象
私は青年海外協力隊といっても短期プログラムで半年活動した程度で、2年間フルで現場で活動された方々には頭が下がる思いでいっぱいで、協力隊の活動を語る資格もそこまでないと思っているが、自分の限られた体験・他の隊員の方々と交流を通してで受けた印象をPositive/Negative両面合わせて書きとめることにする。

①国際協力の世界へのEntryとして安全・安心・最適
何といってもJICAの手厚い保護・支援の元、日本国を代表する立場でボランティア活動できることは、零細NPO/NGOと比較した場合の協力隊の最大のメリットであろう。2年の隊員であれば事前に2~3か月語学・国際協力の基礎・途上国で活動をする際の注意事項に関する研修をきっちり受けれるし、現地での健康管理のサポート、エマージェンシー対応、活動補助金という名の実質的な給与は、初心者にとって途上国で活動を安全・安心なものにしてくれる大きな要素である。

ただ、以下でも述べるが、国際協力のプロを目指している方にとって最善の場所かどうかは検討が必要である。

②国際協力のプロではなくあくまでもボランティア、ただし市民交流と開発案件発掘の側面も
青年海外協力隊は、あくまでも(日本国政府から活動補助金をもらって実施する)"ボランティア"であって、給料に見合うOutputが求められる国際協力のプロではない。活動のゴールは"個人的な目標"であり、目標の達成の度合についてフォーマルな評価があるわけではない。従って悪い表現を使えば"単なる自己満足"、ひどい場合は評価のないことを逆手にとって2年間遊び呆けてしまうこともあるようだ。

幸い私の周りにはそういう方はほとんど見受けられなかったが、隊員個々人のスキルレベル・意識の高さはばらつきがあるようにみえた。スキルと志の両方バランスよく、開発専門家さながらに高いアウトプットを出しながら活動されて、その後大学院で体系的な知見を磨き、国際協力のプロとして進んでいく方や、志は高いながらもコミュニケーション技術・問題解決力がまだまだ不足してなかなかアウトプットが出せない方、うまくいかない活動に途中で投げ出しモードに入ってしまう方、など、まさに玉石混合といった感じであった。

Outputの質は個人の資質・志だけでなく、要請企画の質に起因していることもあるようだ。あくまでもボランティア用という位置づけで事前の調査も手厚くされているわけではないので、要請書に書かれているようなニーズがそもそも現場になかった、カウンターパートからきっちり活動の了承をもらっていなかったため全く相手にされないなど、隊員が派遣されてから戸惑ってしまうケースも多いようだ。特に村落隊員などは、"とりあえず現地に放り込んで、案件自分で見つけて"系の無茶ぶりも多々あるようだった。

ただ、これは現地の所長の方もおっしゃっていたのだが、協力隊員はあくまでもボランティアという位置づけなので、"成果を出す"ことだけが本質ではない。お会いしたどの隊員にも共通していえることは、現地の組織・コミュニティーにどっぷり根ざして活動をされていることだ。首都の高級住宅地にベースを置いて活動している専門家と違い、隊員は現地の住民と衣食を共にし、現地の言葉で活動するため、①国際協力の前に市民交流としての意義(隊員が活動している地域はホントに親日)があり、②専門家では見えない地域住民の視点からの課題発見・うまくいけば開発案件の開拓につながる。

私は協力隊の意義は活動のOutputよりも、市民交流、案件開拓、そして参加した隊員の人材育成効果、国際協力の裾野の拡大、にあると感じている(そして、国の税金を使って派遣する意味もあると思っている)。

③現職教員参加はすばらしいプログラム
協力隊には現職教員特別参加制度という小・中・高の国公立学校教員が退職せずに2年間参加できるプログラムがあり、実際にかなりの数の先生方が参加されている。

このプログラムは以下の通り、途上国・教員・日本の生徒にとっていいことずくめの素晴らしいプログラムである。
  • 途上国で慢性に不足している現地の学校で一教員として参加し、授業を担当するのが活動のため、他の職種の案件と違って、要請書のQualityのばらつきがなく、赴任当初から安定して活躍でき、途上国の教育の質の向上にDirectに寄与できる
  • 大卒で社会に出ることなくいきなり教職につく先生方にとっては、社会経験・国際経験を積む大きな機会で、帰国後に人間として一層魅力がある教員として教壇に立てる
  • 赴任中も派遣元の学校の生徒とコミュニケーションをとることによって、日本の学生の途上国に対する理解が深まる
実際に何人か現地で活動されている先生方と交流させていただいたが、非常に人間的に魅力的な方が多く、こういう先生方に指導されれば日本の学生も活き活きと学校生活を送れるのでは?と確信している。

④村落開発普及員は"人間力"を磨く修行の場
協力隊には村落開発普及員という、農村地域に入って農業・手工芸品開発・公衆衛生・教育振興などの活動をする職種がある。JICAのHPでいろいろ定義が書いてあるが、他の職種と違って求められるスキルはなく、私は要するに"地域振興の何でも屋"(Generalist)だと解釈している。

③でも書いたように村落開発普及員の案件はあいまいな要請内容が多く、隊員によっては任地に派遣されてから、あまりにも要請書の内容と現実が違いすぎて困惑してしまうこともあるようだ(とくに志が高くて生真面目な人)。そのため、村落開発普及員は悪く言えば丸投げ・放任主義、よく言えば自分で活動案件を開拓し、目標を設定し、何といっても現地の人から信頼を積み上げていく、いわゆる"人間力"を磨くチャンスである。

実際に女性の隊員で、水道も電気もない村にただ一人放っぽり出され、要請書の農業指導の内容にさっさと見切りをつけ、自分で地域を巡回してニーズを発掘し、最終的に地域の小学校の父母にクラフト作りを振興し、校舎の建築や図書室の整備にとりくまれている方の活動の現場を見学させていただいた(詳細)。彼女はコミュニケーション能力が非常に高く、現地のコミュニティから非常に高い信頼を得ている様子は、これぞ村落開発普及員の醍醐味だと感動した記憶がある。

⑤シニア海外ボランティアも素晴らしいプログラム
青年海外協力隊は20~40歳が対象だが、40歳~69歳の方を対象にシニア海外ボランティアというプログラムがある。

この制度も非常に素晴らしいプログラムで、毎年数百名の方々がアジア・中南米中心に活動されている。アフリカのウガンダにまでも数名のシニアボランティアの方がいらっしゃって、元気に活動されていた。シニアの方々は経験豊富で確固たるスキルを持っているため派遣先にインパクトを与える力を持っていおり、途上国で必要とされている技術とのマッチングが今の日本の若者よりも高い(例えばウガンダでは電気工事技師のシニアの方が活躍されていたが、今の若い世代はITはともかく、電気・機械・自動車整備など、手に職系の技術はもっていない)ので、受入れ側にとって大きなメリットがある。

また、最近のシニアの方は元気な方が多いので、退職後に家でゴロゴロしているよりはよっぽど健康的で、第二の人生をより豊かにされているように見えた。

※その他青年海外協力隊の体験の長所・短所
山本敏晴さんという方が以下の書籍(もしくは全く同じ内容のBlogの記事:青年海外協力隊の良し悪し)で非常に的を得た評価をされている。協力隊の評価だけではなく、国際協力の世界を高校生でもわかるような読みやすいタッチで面白く解説してあるので、国際協力に興味がある方はぜひご一読を。
国際協力師になるために (山本 敏晴著)
国際協力師になるために

2年間は長い?企業活動と融合した短期ボランティア現職派遣のススメ
上記のようにいろいろ課題もあれど、協力隊での活動経験は多くの人にとって素晴らしい体験になると思っているのだが、"2年間"という条件が興味はあるが一歩足が踏み出せない人を多数つくる要因となっているように見える。

前に所属していたIT系の会社でも"ボランティア休職制度"なるものがあり、実際にその制度を使って2年間南の島でIT教育をされて帰ってこられた方がいらっしゃったが、変化が激しいこの業界ではほとんど"浦島太郎"的扱いで、本人も受入れ部署も困っているように見えた。途上国での2年間という時間は個人にとって帰国後の失業のリスクが大きいし、"ボランティア派遣制度"で派遣している側の企業にとっても2年間で本人の意識が変わって離職してしまうリスクが大きい。

また、とくに自分でキャリア計画をきっちりもっているスキル・能力の高い人ほど、2年間の不透明な時間への投資はリスクが高いと躊躇してしまうことが多いのでは、と感じている。その意味で、私が今回参加したような短期案件(1か月~)、とくに企業活動と融合した短期案件がどんどん増えて、裾野が広がれば、さらに高いスキル・能力を持った参加者が増えて、JICA・受け入れ側の途上国・派遣企業・参加者にとって以下のような相互メリットがあると考えている。

①JICA・途上国へのメリット
高いスキル・能力を持った参加者が増えることによって、各案件のOutputの質が向上し、受け入れ側の途上国にメリットがあるとともに、JICAの活動の評判も向上する。
②企業へのメリット
2年間の派遣に代わって短期派遣を増やすことによって離職リスクが低減する。また、単に自社ビジネスと無関係なボランティア活動ではなく、人材育成計画・新興市場マーケティングと整合して派遣することで、企業側も派遣に対するリターンを得ることができる。しかもJICAのサポート付き。
(たとえば自分のITの案件でも、職歴1~2年目のITエンジニアを派遣すれば、立派な語学研修・プロジェクトマネジメント・リーダシップ研修にもなるのでは?と感じた。また、一部の日本企業では実際に、隊員OB/OGを新興国マーケティングの部署に配属しているようだ。)
③個人へのメリット
会社を辞めずに途上国でも活動をしてみたい、という人はかなり多いのでは?と思う。2年間ではなく、短期の案件であれば、個人にとっても失業・復職後のギャップのリスクなく安心して参加できる。

ということで、まだJust Ideaの段階であるが、もし将来機会があればJICA・企業を連携して、"ハイエンドのプロフェッショナル向けのJICAボランティアのコーディネート"みたいのをやっていたいと思っている。
(課題としては、各組織のインセンティブの調整、高いスキルを持った人材を活用する案件を計画できるプロデューサー的なボランティア調整員を現地に確保しないといけないといったところだろうか。)

その他 感じたこと・考えたこと
現地に足を運んで半年間活動・生活してみて感じ・考えたことはいろいろあるが、MBA・経営コンサルティングや国際開発学の固い視点で物事を見ていたわけではなく、一個人の視点で、言葉にしてみるとごくごく単純で、既に言い尽くされた、場合によっては陳腐に聞こえるものだ。ただ、それを現地で自分の目で見て・体験したことでより強く感じるようになった。

①日本とウガンダどっちがいい?
日本とウガンダどっちに住む?と言われれば、間違いなく日本を選択する。
首都カンパラでも電気・水道が不安定だし、食べ物も限られているし、ネットは遅いし、 交通の便が悪いし、空気は悪いし、日本に住む方が絶対いいに決まってる。

ただ、ウガンダにも日本にはない・そして日本が失ってしまった、たくさんのいいところがある。

ウガンダの生活は本当にのんびりしている。隊員の方々ともよく話になったのだが、なんで日本にいた時は通勤ラッシュの電車に乗りながら、毎日毎日眉間にしわを寄せてシリアスな顔して生活していたんだろうと。物もないのにウガンダの子供達は屈託のない笑顔で毎日毎日きゃあきゃあ楽しそうに笑っている。"三丁目の夕日"的なノスタルジーをウガンダに感じてしまった。どっちが幸せかはわかりませんね。
(Mpigi県 Kibibi, Mabanda村の小学生達)

②ただただ途上国と先進国のGAPを再認識:ますます広がっている?
自分が普段仕事をしていたような先進国の高層ビルのピッカピカのオフィスと、ウガンダの山奥の森の中で生活しているような人たち(一回ホントに見たんです!!)が同じ世界であるのが未だに信じられない。そして、先進国ではますます変化のスピードが増しているのに対し、そのスピードに首都カンパラでさえ全くついていっていないように見える(単純にGDPでいえばウガンダは先進国より高い成長率を誇っているのだが、変化のスピードは先進国の方が早く見える)。農村部や山間部ではより一層だ。

経済水準はともかく、圧倒的に感じたGAPは個々人の選択肢の差。我々は努力次第でどんな職業につくことも、収入を向上させることも、居住地を変更することも、海外に旅行することもできるが、途上国では農村部でも都市部でも圧倒的に選択肢は限られている。移動範囲の例を一つあげるとすると、ウガンダ国内にあるサファリはほぼ外国人のためのもので、地元の人は国を代表するライオンやゾウを教科書で見たことがあるだけ、実物を見たことがある人はほとんどいない。海外はともかく、国内の移動でさえ限られてしまっているのだ。

アジアの途上国はともかく、アフリカ諸国が先進国並みの環境になる日はくるんでしょうか?いまだ想像がつかない。

③格差を埋めるにはどうしたらいいのだろう?先進国の市民の役割は?
これもホントにありきたりですが、自分はたまたま日本で生まれて、彼・彼女らはウガンダで生まれて、一生あがいて努力しても埋めがたい格差がある。さらに、(少なくとも自分には)その格差は広がっているように見える。

自分が所属しているMBAなんてまさにその格差拡大の象徴で、持てる者がさらに高い教育を受け、閉鎖的なNetworkを構築して、格差をどんどん広げる原動力になってしまっている気がしてならない。こんなに優秀で世の中にインパクトを与える潜在力がある人が集まっているのに、やれConsulting Firm・IVB・PE/VCに入るためのResumeはどう書くか?Case InterviewをどうCrackするか?にほとんどのエネルギーが費やされている。未来のビジネスがどうあるべきか?なんて話もいっさいない(少なくとも自分の学校では)。

どうにかならんか?というのが素朴な感情だ。ウガンダでも(その後に訪れた)インドやバングラディシュ・他の途上国でも、貧困、感染病、難民、飢餓・・・と先進国よりよっぽどひどい問題を抱えているのに、世の中の一級品の人材が(あくまでも豪欲むき出しではなくSmartに)自己利益最大化に特化して、"途上国から利益を搾取する"ことはなけれど弱者の深刻な問題に"無関心"であるように見える。

ビル・ゲイツの言葉を借りれば、「マラリアの治療よりも育毛治療の方に大金がそそがれているのが世界の現状」ということだ。

別に全ての人がマザーテレサのように献身的になる必要はないし、誰にとってもまずは自分・家族・友人が大事なのは大前提なのだが、この格差は本当にどうにかならんものか?先進国の人はこの問題にどうかかわっていけばよいのか?

その答えが、いわゆるBOP/InclusiveビジネスやSocial Enterprise/Businessといった社会問題を解決するビジネスの新しい動向にあるのか?開発業界や国際政治にあるのか?はたまた寄付や古典的慈善活動にあるのか?

今のところ答えを持っていないが、これだけ資本主義のしくみが世の中に浸透している以上、ビジネスの新しい動向には大きな可能性とリスクを感じている。これを具体化していくのがこの2年間の留学の大きなテーマの一つなのだろう。

※ほぼ1日がかりで常々思っていたことを整理して書いてみたら、読み手無視のとんでもなく長い投稿になってしいましたが、あしからず。あんまり反省もしてませんが・・・(笑)

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